数か月前にフランス人と一緒に食事をしたときに「原子力発電に賛成ですか、反対ですか?」と意見を問われました。
一瞬、驚きましたが、よく話を聞いてみると、2011年の福島原発事故以来、フランスでも原発推進派と原発反対派の意見が真っ向から対立しているため、原発に関心が高いようでした。
もともとフランスは原油に依存した国でしたが、1973年のオイルショックでOPEC諸国が原油価格を4倍にしたことをきっかけに、脱原油政策を強力に推し進め、現在は、58基の原子炉が稼働し、エネルギーの4分の3を原子力で賄っているほどの「原子力大国」になっています。
しかし、福島の原発事故以来、フランスで原子力発電を不安視する人たちが多くなってきたようです。
私は、原子力発電については「短期的には賛成、中長期的には反対」という意見を持っています。
日本のエネルギー構成に占める原子力発電の割合は、震災時点では25%でしたが、現在は1%と激減しています。これは、太陽光や風力などの再生可能エネルギーや、石炭・石油・天然ガスなどによる火力発電にシフトしたためです。
しかし、政府は、将来的には、再び、原子力発電の比率を20~22%程度にまで引き上げる方針です。
それは、昨年11月に地球温暖化対策の国際的枠組みとして発効した「パリ協定」で、温室効果ガスを、2013年比で、2030年までに26%、2050年までに80%削減する目標を立てているからです。
原子力発電の比率を上げれば、当然、パリ協定の目標を達成しやすくなりますが、私は「その削減目標を達成するための唯一の方法が、本当に、原子力発電の比率を上げることなのか?」について知恵を絞りながら煮詰めていかなければいけないと思っています。
ところで「独フランクフルト国際モーターショー」が一昨日、閉幕しましたが、今回の主役はEV(電気自動車)でした。
その背景には環境規制強化の動きがあり、英仏両国は、2040年までにガソリン車やディーゼル車の販売を禁止する方針を表明し、中国もそれに追随しました。
そのため、世界の自動車メーカーは、いま、こぞってEVの開発を加速しています。
もし、EVが主流の時代が到来すれば、世界各国の基幹産業の自動車産業を根底から覆すことになります。
というのは、ガソリン車はエンジンやトランスミッションで走り、HV(ハイブリッド)、PHV(プラグインハイブリッド)はエンジンとモーターとの併用で走り、EVはモーターで走るのですが、従来のガソリン車で使われていた1台当たり約3万点の部品の多くがEVだと不要になるため、その部品を作っているサプライヤーにとっては死活問題だからです。
英仏両国は、2040年までにガソリン車やディーゼル車の販売を禁止すると言っていますが、そもそも、近い将来にEV主流の時代が本当に来るのか、甚だ疑問です。
EVは走行距離と充電時間に大きな課題を抱えていて簡単には解消できないと思うからです。
2016年の世界レベルでのガソリン車・ディーゼル車の生産台数は96%、2025年時点でも68%と予測されているのに、その後の、2040年までの15年間でゼロになるとは思えません。
英仏だけがEV・PHV・HV車しか走らず、その周りの欧州諸国ではガソリン車・ディーゼル車が走り回っている姿も考えにくく、自由にEU圏内を車で往来することもできなくなります。
また、EVが急増すると電力不足が懸念されます。
それを補うために石炭火力発電が稼働すればCO2排出量が増えます。
そうなると、EVの普及は、自動車が走行する都市部で発生していたCO2を、火力発電所のある郊外に移動させただけで、地球規模で見たときには、CO2排出量に変化がないことになります。
もし、そうだとすると、EVは環境に優しい車とは言えなくなり、その結果、パリ協定発効 → 環境規制強化 → EV急増 → 電力不足 → 火力発電 → パリ協定目標未達 → 地球温暖化、という悪いサイクルになるかもしれません。それを避けるためには、また原発に戻ってしまいます。
パリ協定、原発、EV、あちらを立てればこちらが立たず。
知恵を絞って最適解を求めなければいけません。
※添付画像は、2017.08.31 読売新聞に掲載された「日本のエネルギー構成」と 2017.09.13 読売新聞に掲載された「EV生産拡大見通し」です。
2017.09.26
