私は、時々、東京・新宿の紀伊國屋書店の中を散歩します。8階の語学コーナーに行くと、本当にたくさんの語学参考書が並んでいます。その多くが英語のノウハウ本で、数百種類あります。
これだけ多いということは、よく売れるからです。よく売れるということは、それだけ英語を勉強しなければいけないと考えている人が多いということですが、日本人で、外国人と英語で自由にコミュニケーションの取れる人はたいへん少ないような気がします。
しかし、東南アジアに行くと、欧米人が立ち寄るような店で働いている人が、英語でやり取りしている光景をよく目にします。学校もまともに出ておらず、英語を勉強したこともないような人も多いと思います。
そばでよく聞いてみると、かなり無茶苦茶な英語を話していて、文法的には間違いだらけなのですが、ちゃんと意思疎通が図れています。
この事実には2つのヒントが隠されています。
ひとつ目のヒントは、日本人が文法的にきちんとした英語をしゃべろうとし過ぎているのではないかということです。
たとえば、日本に来たばかりの外国人が、ほとんど日本語になっていない日本語で話しても、3割も理解できれば、ほぼ会話は成り立ちます。英語でも同様ですが、これが日本人にとっては難しいのです。英語を頭の中で作文してからでないとなかなか口から出てきません。ポツリポツリとしか話すことができないので、うまく英語でのキャッチボールができないのです。
もうひとつのヒントは、英語でコミュニケーションをとる必要性があるかないかです。
先ほどの東南アジアの人たちは生活がかかっていますので、英語を話す勢いが凄いのです。ですから、英語がなかなか口から出てこないうちは、まだ英語でコミュニケーションをとる必要がないということです。
私は、以前、仕事でニュージーランドに延べで半年ぐらい滞在したことがあります。周りに日本人がひとりもいない環境のことも多かったので、否応なく英語で仕事先や地元の人たちと話していました。最初のうちは頭の中でいろいろ考えながら話していたのですが、そのうち、徐々にやり取りがスムーズになってきました。このときは、仕事をするうえでも、生活するうえでも、英語が必要だったからです。
しかし、日本に戻ってしばらくすると、あっという間にメッキがはがれてしまいました。日本での生活では英語が必要ないからです。
このように、英語は、必要に迫られればなんとかなり、不要になって使わないでいれば忘れてしまうのだと思います。
日本人は真面目な人が多いので、どうせ話すならきちんとした言葉で話したいと考え、将来に備えて英語のノウハウ本を買いあさります。その将来が本当にあるのかどうかわかりませんが、それでも英語のノウハウ本は売れ続けるのです。
2017.05.15