たまにスーパーマーケットに行くと「福島産」の野菜や果物や卵などが、どことなく遠慮がちに陳列棚に並んでいるのを目にします。
そして「福島産」という文字が、他の地域と比較してひと回り小さな活字で印刷されているような気がします。
原発事故の前は「福島産」の果物は飛ぶように売れていました。
しかし、その事故から6年以上も経つというのに「福島産は危ない」というイメージが消えていません。
本当のところ「福島産」は安全なのでしょうか?
震災後、政府が、従来の放射線量の基準値を引き上げて「基準値以下」だと説明したことがありました。専門家は、広島・長崎など他のケースと比較しながら「危険度はかなり低い」とか「口にしてもただちに健康に影響を与えるほどではない」などと歯切れの悪い説明をしますが、それで安心する人はいません。
そもそも、国民は政府の説明に対して不信感を抱いているからです。「嫌なものは嫌だ」となります。
福島県民は「風評被害者」だと言われますが、では「福島産」を買わない消費者は「風評加害者」でしょうか?
フジTVの「めざましテレビ」のキャスター・大塚範一さんは、番組の中で、福島を応援するために、毎回、福島県産の野菜でできた料理を食べるキャンペーンを続けていましたが、半年後に急性白血病で休養することになりました。大塚さんは高濃度の放射能が検出され「ホットスポット」と言われていた千葉県柏市に住んでいました。
因果関係はわかりませんが、いずれにしても、タイミングが悪すぎました。
国の食品衛生管理委員会が定めた基準値が100ベクレルの食品を、スーパーマーケットで「放射能測定結果1ベクレル」と表示して販売したときに、その食品は売れるでしょうか?
たぶん、あまり売れないと思います。「0」でない限り安心できないからです。
「ベクレル」の意味を知っている人は少ないと思います。「ベクレル」とは放射性物質が放射線を出す能力を表す単位、「シーベルト」とは人が放射線を受けた時の影響を表す単位と説明されても、さっぱり理解できず、とにかく「0」でない限り安心できないからです。
被曝の危険性について研究している矢ケ崎克馬・琉球大学名誉教授は「子どもの場合1kgあたり1ベクレルもあったら大問題」、「大人でも健康を守るという意味では、50ベクレルだと、まるっきり安全ではない」と発言しています。
また、ドイツ放射線防護協会は「セシウム137は大人で8ベクレル、子供で4ベクレルが限界」と報告しています。
現在の日本には、チェルノブイリ法では「強制移住地域」の範囲内に多くの人が住み、田んぼや畑で米や野菜を作っています。そうしなければ生きていけない人たちがたくさんいます。
今まで福島原発で恩恵を被っていたのは東京を中心とする関東地方の人たちだったと思います。「東北電力」ではなく「東京電力」だからです。
そして、いま「福島産」を最も敬遠しているのも、同じく、東京を中心とする関東地方の人たちです。
農水省は断続的に福島応援キャンペーンを展開しているようですが、キャンペーンは足元から始めなければいけません。
つまり、国会をはじめとするすべての官公庁、すべての地方自治体、すべての国公立大学、すべての国公立の高校・中学校・小学校など、すべての国会議員、都道府県・市町村議会議員、国家公務員、地方公務員が食事をする施設の食材をすべて「福島産」にするところから始めなければいけないと思います。
そこまでやったうえで国民全体に呼びかけなければ説得力に欠けます。
「先ず隗より始めよ」です。
ところで、セシウム137の放射能が1,000分の1になるのは約300年後と言われています。今から300年前は江戸時代中期でしたので、それと同じ長さが必要です。その前提で放射能リスクに向き合いながら生きていかなければいけません。
「福島産」が特別な目で見られているのは、本当に気の毒なことだと思います。
私は「風評加害者」にはなりたくないのですが、進んで「福島産」を食べることには若干の抵抗があります。
それは、ひとつには、海外との相対比較で日本の基準値が高いからであり、もうひとつは「基準値に収まらなければ基準値を上げてしまえ」という、当時の民主党政権時代の政府の安易な対応が、今でも気に食わないからです。
2017.10.04