1960年代のアメリカの心理学者アブラハム・マズローの「欲求5段階説」があります。
これは、人間の欲求は5段階のピラミッドのようになっていて、ひとつの階層の欲求が満たされると次の階層の欲求に移行するというものです。
第1階層の「生理的欲求」は、食べたい、寝たい、という生きていくために最低限必要な欲求です。
第2階層の「安全欲求」は、雨風をしのげる家に住んで安心・安全に暮らしたいという欲求です。
第3階層の「帰属欲求」は、集団に属して仲間を求めるという社会的欲求です。
第4階層の「承認欲求」は、他の人から認められたい、尊敬されたい、という欲求です。
以上の第1~4段階が「欠乏」しているものを満たそうとする欲求で、それらがすべて満たされると、最後に、成長欲求という高次元の欲求が生まれると考えられています。
それが第5階層の「自己実現欲求」です。
この欲求は、自分の存在価値を示したいという欲求で、その具体的な形は人によって異なり、個人差が大きいと思います。
とりあえず「欲求5段階説」では、この「自己実現欲求」が頂点となっていますが、実は、マズローは、この「自己実現欲求」の上に「自己超越欲求」や「コミュニティ発展欲求」があると説いています。これには、ボランティア活動のようなものが含まれると思われます。
私は、この理論には賛同する部分とピンとこない部分があります。
第1~3階層については特に異論はありませんが、第4階層と第5階層との線引きがファジーだと思います。
人によっては、第4階層と第5階層とが逆転しているかもしれません。
また、マズローの「欲求5段階説」は、すべからく人は上昇志向が強いということが前提になっていると思います。
そのため、起業家の中には、この理論にぴったり当てはまる人もいるかもしれませんが、世の中、そのような人たちばかりではありません。
人は環境に支配されています。
お金がすべてではありませんが、お金がなければ何も始まりません。第1~2階層のあたりをウロウロすることになります。そのような階層にいる人たちの中には第3階層の「帰属欲求」を拒否している人も多いような気がします。
一般サラリーマンの多くは、幸いにも第2階層を乗り越え第3階層に到達した人たちですが、上昇志向の強い人たちを除けば、家庭や趣味を通じて精神的な豊かさを求めながら幸せに暮らすことを望んでいる人たちもたくさんいると思います。
それは、マズローの説く第3階層に留まっているわけではなく「欲求5段階説」の道から横にそれているのだと思います。
以上のように、マズローの「欲求5段階説」は上昇志向の強い人たちにはあてはまりますが、そうでない人たちにはあてはまらないと思います。
すべての人たちの潜在意識の中で共通していることがひとつあり、それは無意識のうちに「人生の最後に幸せな人生だったと思いたい」と願う気持ちではないかと思います。
そして、そこに至る道がたくさんある中のひとつに、マズローの「欲求5段階説」もあるのだと思います。
2017.08.26