中国当局は、中国の民主活動家・劉暁波さんに関するすべての情報について、厳重な報道統制を敷いています。
今月13日夜に死亡が伝えられたと思ったら、15日早朝には遼寧省瀋陽市で告別式を執り行い、すぐさま火葬して、同日正午には遼寧省内の海に散骨してしまいました。
引き続き、同日午後、瀋陽市当局が外国メディア向けに、劉暁波さんのお兄さんの劉暁光さんの記者会見を設定しました。
会場には大勢の私服公安関係者が待機し、当局監視の下で、記者からの質問を受けつけない異例の会見でした。
会見では、劉暁光さんが、劉暁波さんの死亡、火葬、散骨について明らかにし、散骨については、海に骨つぼを沈める遼寧省沿岸地域の風習「海葬」に倣って自発的にやったと話し、中国政府や中国共産党への感謝の言葉を繰り返しました。
続いて、劉暁波さんへの対応を巡って国内外から強まる批判を打ち消すために、瀋陽市は、奥さんの劉霞さんらが船上から散骨をする写真や動画を公開しました。
中国当局は、とりあえずの情報を公開し、一気に幕引きを図っているようです。
劉暁波さんが亡くなった2日後には、形のあるものをすべて消してしまうという、中国当局の対応の早さには驚かされるとともに、劉暁波さんの遺族が気の毒になりました。
散骨を巡っては、もし、劉暁波さんの遺骨が墓地に埋葬されれば、支持者の抗議の拠点になりかねないとの懸念から、当局が遺族らに散骨を迫っているという報道が流れた矢先のことでした。
記者会見では、劉暁光さんが「自発的に散骨した」と話しましたが、事前に当局から圧力を加えられていたことは間違いありません。
中国当局の対応の早さということで言えば、2011年7月に浙江省温州市で発生した中国高速鉄道の衝突・脱線事故を思い出します。
落雷で停電し動力を失って停車していた列車に、後続の列車が追突し40人が亡くなった事故です。
1日にも満たない生存者捜索作業に引き続き、事故車両の埋め立て作業に入ろうとしたとき、救助隊員の1人が埋め立て開始に反対して1人で捜索を行い、事故から 20時間後に2歳の女の子が救出されたことが報じられました。
そのため、中国インターネットでは、埋め立てが早すぎるとか、まだ他にも生存者がいるはずだとか、という意見で沸騰しましたが、結局、捜索は打ち切られ、事故車両は事故現場の高架下にすべて埋められてしまいました。
この状況は国外メディアでも報じられ、中国当局による証拠隠滅だと非難されたため、いったんは埋められた車両が再び掘り起こされました。
中国政府は事故の犠牲者1人につき、遺族に対して50万元の賠償金の支払いを決定し、すんなり賠償手続きに応じれば、さらに数万元の奨励金を上乗せすると発表しました。
賠償金の50万元は、当時の為替レートで約600万円、当時の中国都市部の市民の平均年収の25倍に相当し、事故の賠償金としては異例の高額でしたが、当時の中国のインターネットでは、50万元という金額は安いのか、高いのかという議論で炎上しました。
中国では、議論が、人命の尊さではなく、お金の方に行ってしまうのです。
閑話休題。
中国当局は、海外メディア向けには、とりあえずの情報を流しましたが、中国国民に対しては、劉暁波さんが今月 13日に亡くなったこと、15日に火葬したこと、散骨したことなど 一切の情報を伝えていません。
現在、劉暁波さんの奥さんの劉霞さんが、劉暁波さんが服役中に残した原稿などの遺品の引き渡しを求めていますが、中国当局は拒否しています。これら遺品の中に政治的メッセージが含まれている可能性があるからです。
このようにして、中国の偉大な民主活動家・劉暁波さんに関することはすべて、中国の歴史から消されていくのだと思います。
2017.07.19