昨年2月にマイナス金利政策が導入されてから1年以上が経ちました。
マイナス金利と言っても、別に、個人が銀行に預金すると目減りするわけではなく、市中銀行が日銀に預ける際の金利がマイナスになるということです。
日銀が買いオペをして市中銀行から国債を買うと、市中銀行が日銀に持っている当座預金口座に代金が振り込まれます。
この金利がマイナスであれば、市中銀行は預けっぱなしでいると損ですので、そのお金を企業に貸し出そうとして、その結果、市場に出回るお金の量が増えて経済が活性化する効果があるはずという考え方です。
金利の先行きを見るための指標として長期金利があります。
長期金利は、国が新たに発行する満期10年の国債(新発10年物国債)の流通利回りを指し、これが、住宅ローンや銀行預金金利を決める際の目安になります。
国債は、市場で売買されている金融商品のひとつで、買いたいと考えている人が多ければ値上がりし、少なければ値下がりします。国債価格が値上がりすれば金利が下がり、国債価格が値下がりすれば金利が上がるという逆相関関係にあります。
たとえば、10年物国債(額面 100円、表面利率2%)を発行し、国債価格が80円に下落したときに購入すれば、価格と額面との差20円が利益になるので、(利息2円/年 × 10年 + 利益20円)÷ 80円 ÷ 10年 = 利回りは5%となります。
また、10年物国債(額面 100円、表面利率2%)を発行し、国債価格が120円に上昇したときに購入すれば、価格と額面との差20円が損失になるので、(利息2円/年 × 10年 ー 損失20円)÷ 120円 ÷ 10年 = 利回りは0%となります。
これが金利が決まる仕組みです。
最近、欧米の長期金利が上昇して日本にも波及してきていますので、長期金利は上がり気味です。
しかし、日銀は長期金利を0%程度に抑えることで景気の下支えをしようとしていますので、日銀が指定した利回りで国債を無制限に買い入れる「指し値オペ」を実施して、長期金利を0%程度に抑えようとしています。
長期金利が0%程度であれば、外国為替相場は、運用に不利な円を売ってドルを買う動きが強まり、その結果、円安に誘導することができるという理屈です。
経済理論では以上のようになります。
しかし、日銀が描いている理屈通りに企業が動いているわけではありません。
企業は、将来にわたっての固定費負担を軽くしようとするので、給料は抑えに抑え、利益処分の際には、しっかり配当を出して残りは内部留保を貯め込んでいます。また、設備投資意欲が旺盛ではないので、市場に出回るお金が増えたとしても借り手がつきません。
ですから経済は活性化しないのです。もっと正確に言うと、多くの人が生活実感では不景気なのではないかと感じる程度の、しょぼくれた好景気が続いているのです。
そのおおもとの原因は、日本のリーディングカンパニーが軒並み人件費を抑え、中小企業がそれに倣っているからだと思います。
給料が増えないから消費を抑え、貯蓄が増えます。モノがあまっているのでインフレにはなりません。
日銀のインフレ目標2%はいつまで経っても達成できず、緊急避難的な金融政策を解除することができません。
日銀が描いたシナリオを狂わしているのは、やはり日本のリーディングカンパニーの内部留保貯め込み体質にあるのだと思います。その傾向は、2008年のリーマンショック後にさらに強くなったような気がします。
その体質が変化しない限り、経済が活性化することはないと思います。
2017.07.16