五代目・一龍斎貞花さんという講釈師がいます。「講釈師見てきたような嘘をつき」の講釈師です。
私の知り合いのひとりですが、人間的にとてもよくできた方で、この人ほどの人格者をほかに知りません。
初めて貞花さんにお会いしたのが 1978(昭和53)年ですから、39年前になります。昭和30年代の大相撲の力士で最高位が小結の故・成山(なるやま)さんの夫人からの紹介でした。成山さんは、栃錦、初代・若乃花がともに横綱で、栃若時代を築いていたころの力士です。
貞花さんは愛知県の出身で、もともとは洋菓子メーカーでサラリーマンをしていましたが、1968(昭和43)年、29才の時に講談の世界に転身し、8年後の1976(昭和51)年に真打ちに昇進、五代目・一龍斎貞花を襲名しました。私が初めてお会いしたのが、その2年後のことです。
講談のジャンルは、古典講談のほか、ビジネス講談、野球講談などを得意とし、寄席で演目が「王貞治物語」だった時には王さんを招き、高座で対談をしたこともありました。
愛知県出身ということで、中日ドラゴンズの球団外広報も務めていますが、巨人や他の球団とも懇意にしているようです。
現在78才で講談協会の常任理事を務めていますが、とても謙虚な方で人柄もよく、清廉潔白で、気遣いができる方です。
また、筆まめで、いつも気にかけてくださり、私が住んでいる宇都宮の周辺が大雨で災害が起こった時には大雨見舞いのFAXを送っていただいたり、私の母が亡くなったことを知ると御仏前を送っていただいたり、三回忌にはお供えの品を送っていただいたり、恐縮するばかりです。
さらに、絵もかなりの腕前で、毎年暮れになると、翌年の干支を描いた色紙が送られてくるのですが、その色紙を包む紙が、昔から、三越や高島屋などの百貨店の包装紙を再利用し、封筒も手製です。そのたびに、モノを粗末にしないという人生の生き方を教えられているような思いで、包みを解いています。
もう長いことお会いしていませんが、NHK総合テレビやNHK-Eテレで放送される「日本の話芸」という番組に、年に数回出演したときの元気そうな姿を見ては安心しています。
この世に聖人君子などいるはずがないと思っていた時期もありましたが、貞花さんと知り合ってからは、そうでもないかもしれないと考えを改めるようになりました。
貞花さんは私が心の底から尊敬している方で、見習わなければいけないことだらけだと思っています。
2017.08.17