数か月前、たまたま見ていた国会中継で、安倍首相が、アメリカのトランプ大統領、ティラーソン国務長官、マティス国防長官が、尖閣諸島は日米安全保障条約第5条の適用対象であることを明確に認めたので大丈夫、と自信満々で答弁していました。
果たしてその通りなのでしょうか?
全然大丈夫じゃないと思います。
それは、尖閣諸島を巡って、中国が明らかな武力攻撃を仕掛けてくることは考えられないからです。
内閣法制局は「武力攻撃とは国家の意思にもとづく組織的・計画的な武力の行使である」と定義しています。
であれば、中国が武力攻撃と断定できないような攻撃を仕掛けてきたときには、自衛隊は反撃のために武力を行使することができません。日米安全保障条約第5条の適用対象にもならないので、米軍も関与することができません。
ここ数年の間に、東シナ海や南シナ海で中国がとってきた行動から容易に想定できるのは、次のようなシナリオですが、この場合、日本政府はどのように対応すればよいのでしょうか?
中国が尖閣諸島周辺の日本の領海に大量の漁船を送り込みます。そして、海上保安庁の巡視船の制止を振り切って尖閣諸島に続々と上陸を始めます。日本の警察はそれを逮捕しようとするのですが、完全に圧倒されて手がつけられません。
最初はただの漁民かと思っていましたが、よくよく見ると、その中には武装した中国軍がたくさん紛れ込んでいます。つまり、漁船に見せかけた中国軍と漁民との混成部隊というわけです。
そして上陸部隊が完全に島を制圧し占拠します。数週間後には、そこに軍事施設を建設して実効支配を続けます。
中国は次々と軍艦を送り込んできます。自衛隊も出動しますが、明らかな武力攻撃を受けたわけでないので手を出せず、中国軍と自衛隊とのにらみ合いが続きます。
中国は国際批判を浴びますが、尖閣諸島は中国の主権の及ぶ範囲にあり、統治権は中国にあると一蹴します。
このような武力攻撃とは言い切れないグレーな侵略行為の場合、米軍は介入をためらいますので、中国がつけ入る隙が生じることになります。
南シナ海で年々強まる中国の海洋進出と軍事拠点化、力による現状変更の実態を見ると、最も現実的な危機というのは、中国が意図的に、自衛隊が動きづらく、米軍も介入しづらい事態を引き起こすことで尖閣諸島の実効支配を狙ってくることです。
中国は尖閣諸島での領海侵犯、領空侵犯を繰り返しながら、その機会をうかがっていると考えるべきだと思います。
ですから、日本政府としては、中国にそのような事態を引き起こさせないための対策、そのような事態が起きてしまったときの対応について、知恵を絞って真剣に検討しておくべきだと思います。
尖閣諸島は日米安全保障条約第5条の適用対象だから大丈夫などとのん気なことを言っている場合ではありません。
2017.08.12