習近平政権になってから、中国人に対する言論弾圧が強化されましたが、外国人に対する監視も強化されています。
その根拠になっているのが、2014年に施行された「反スパイ法」です。
この法律の立法趣旨は「中国共産党政権を揺るがす外国からの影響力の排除」ということになるかと思いますが、対象は外国人です。
どのようなことをすればこれに違反するのかについての定義は曖昧です。
一応、中国の安全に危害を加える活動、国家機密の買収、偵察など、いくつか列挙されていますが、すべての判断は国家安全局に委ねられています。
ですから、国家安全局の一存でどうにでもなる可能性があり、罪刑法定主義に反した法律になっていると思います。
そして、中国当局による監視だけではなく、中国市民に対して、外国人のスパイ行為の通報を奨励する「規則」が公布され、施行されています。
また、通報者には、成果に応じて最大50万元(約800万円)の奨励金が用意されていて、奨励金欲しさに、外国人が合法的な行為をしていても通報される恐れがありますので、とても危ないです。
現在、この「反スパイ法」違反の容疑で中国当局に拘束されている日本人は、少なくとも8人はいると考えられています。
軍事機密に関する違反行為と言われていますが、本当のところはわかりません。
私は中国には仕事で32回渡航しましたが、現地では信頼できる中国人や日本人駐在員と行動を共にすることが多かったため、このような危険に遭遇したことはありません。
しかし、会社を退職してしまうと単独で行動する機会が多くなりますので、中国市民から通報されるリスクが高まると思います。
私は、中国では、中国当局による電話の盗聴が、今でも普通に行われていると思っています。
というのは、私は、日中間で、電話で話す機会が多くありましたが、話がちょっと横道にそれて、毛沢東や鄧小平や習近平など政治の話になった途端、突然、雑音で相手の声が聞こえなくなり、数秒後に切れてしまうということが、数回あったからです。単なる偶然ではないと思います。
また、38年前の1979年に、私が初めて中国に出張したとき、日本の会社と電話で10分か20分ぐらい話していると、1分ぐらい通話が途切れ、その間、電話の向こうでカラカラとカセットテープを巻き戻す音が聞こえていました。
事前に、現地の事情を知る会社の人から、その話を聞いていましたが、確かにその通りでした。これも中国当局による盗聴・録音だと思います。
このようなことをきっかけにして、中国当局から身柄を拘束されるリスクは高いと思います。
昔々、韓国で、ひとつ間違えば大変なことになっていたことがありました。
韓国と北朝鮮との軍事境界線(38度線)の南北それぞれ2kmは非武装中立地帯になっていますが、その外側は武装されています。
1970年代前半、私は、南北が緊張状態にあったこの最前線への入場を許可された車両に乗っていたのですが、監視の目をかいくぐり、武装し機関銃を手にした韓国軍兵士や戦車を写真撮影したことがありました。
当然、撮影禁止区域です。当時、もしこれが見つかれば、カメラからフィルムが抜き取られると言われていました。結局、何事もなかったからよかったものの、いま思い出しただけでもゾッとします。
このようなことを中国でやるのはもってのほかです。
これから中国に渡航される人たちは、中国の「反スパイ法」は、本人が何かをしたという意識がまったくなくても、中国当局に拘束される可能性があるということを知ったうえで、現地滞在中は、そのリスクを極力ゼロに近づける行動を心がけなければいけないと思います。
いったん拘束されたら、日本政府が釈放要求をしても釈放されません。中国は、安全な日本とは違います。
中国の「反スパイ法」を甘く見てはいけないと思います。
2017.10.10